戯言だと思っていた向日葵作戦が。

ほぼ全文掲載しちゃうけど、ネットで公開されたらリンクに変える予定。
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ISASメールマガジン   第342号       【 発行日− 11.04.12 】
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★01:原発事故の荒野をヒマワリで埋めよう

 2011年3月11日の東日本大震災による津波は、東京電力の福島の原子力発電所を直撃した。幸いにして、1986年のチェルノブイリ原発事故のような大きな臨界核爆発はおこさなかったのだが、原子炉の冷却機能が失われて炉内の圧力はどんどん上がった。高温になった燃料棒と水が反応して水素が生成し、その水素による爆発が繰り返された。

 このような状況のなかで、原子炉のなかに蓄積されていた核分裂反応の産物である放射性の元素(アイソトープ)が封を破って噴出した。放射性物質は風に乗り、また拡散して福島を中心とした広い範囲にひろがり、1週間もたつとヨーロッパにまで達した。原発から北西方向には どうも風の道があるのか、初めに避難命令がでた20kmのラインを大きく超えた範囲でも、高い放射能汚染が観測されている。放射性物質は、大気や陸ばかりでなく、海にも流れ込んでいる。雨にとけて降った。東京の水道水にもその陰をおとし、乳児への影響が報道されたとたんに、全国でミネラルウォーターのペットボトルが売り切れた。報道されている原発から漏れている放射性の元素(アイソトープ)は、そこそこに半減期の短いヨウ素と、30年以上のつきあいになるセシウム(ただし土壌に入ったセシウムは流下し半減期10年ほどで減じていくという報文もある)が主なものだ。これら2つ以上に危険なストロンチウムは、測定しても検出限界以下なのか、そもそも分析されていないのかは私にはわからない。
原発事故以来、知識の引き出しをひっくりかえし頭をフル回転させ、どんなことがおこり、そのリスクはいかほどかを、繰り返し反芻し確かめる毎日となった。

 原発事故による汚染農業土壌をなんとかきれいにできないだろうか。重く汚染された土壌をつかい 口に入る食料作物を育てることは当面できない。放射性のヨウ素半減期が短いので、時間が経てばでてくる放射線は弱まる。セシウムは植物の肥料の一つであるカリウムと性質が似ているので、植物は体の中にセシウムを取り込みやすい。仮にストロンチウムもあると、カルシウムと似ているのでヒトの骨に入り込み長い年月骨髄に放射線をあてるのでやっかいだ。
表土を入れ替えるという対策もあるだろうが、もし広範囲での汚染であると、これを実行するには工夫がいる。


 宇宙農業サロン・メンバーの石川洋二さんから、すばらしい提案がなされた。
放射性のセシウムなどで汚染された地でヒマワリを栽培する。ヒマワリの根には高濃度のセシウムが取り込まれ、そこにとどまる。チェルノブイリ原発事故のあとで試されたヒマワリは水耕栽培であったが池のなかのセシウムを高効率で吸収できたとされている。チャンピオンデータであろうが、1回の栽培で95%除去とか宣伝されてもいる。土壌ではヒマワリの根がアクセスできる部分が限られるので何回かの栽培が必要だろう。また、根を高収率で収穫しないといけない。ヒマワリにはたくさんの品種があるし、根圏まわりの条件で摂取速度はかわるだろうから、基礎的な研究が必要である。土壌のなかからくまなく吸収するには、キノコなど菌類や土壌微生物がよい働きをするかもしれない。

 ストロンチウムも根から吸われてヒマワリの花にあつまる。有害な有機化合物であれば、植物が無毒化することも可能だが、放射性元素ではそうはいかない。植物が存分に放射性元素を土壌から吸収し蓄積したところでその植物体を収穫する。

 収穫したヒマワリの花は、放射性元素を含んでいるので、花卉市場に出荷するには向かない。しかし、放射性元素たっぷりのヒマワリといっても含まれる放射性元素の量はわずかだ。宇宙農業の活躍の場はここにもある。宇宙農業でつかう高温好気堆肥菌でヒマワリを処理すると、ヒマワリのミネラル分が残る。
この放射性ミネラルをガラスに溶かし込む。このヒマワリ・ガラスを日本海溝の最深部に孔をあけて封ずると、何年後かには地球のマントル層に引き込まれていくだろう。

 宇宙農業サロンは多士済々である。宮川照男さんはヒマワリの種子を25kgも持っているという。この種子で、どれほどの広さのヒマワリ畑をつくれるだろうか。原発事故で汚染された地をヒマワリで覆い尽くそう。

 汚染された農地で何も栽培できない という状況に対して、ヒマワリを植えて早くに元の農地にもどす。われわれは、どんな条件が最適か、ほかによい植物はないかを調べる。宮川さんは、この月末にヒマワリの種子の調達にタイへでかける。タイの大学、研究所との協力も打診している。放射線の強い農地では人間が作業するのは困難であり、農業ロボット・機械が適用できないかも調べている。いろいろな組織でヒマワリの苗の量産をすることも考えてもらっている。さまざまなかたちで皆が汚染土壌の回復に力になれるとよいなと考えている。

 そしてもう一つタスクがある。ヒマワリの他にもっと浄化(リメディエーション)能力の高い栽培植物種があるかもしれない。いろいろな植物の吸収・貯蔵能力を調べてみよう。植物の根はカリウムを選んで細胞の中に吸い上げるしくみをもっている。そんな働きをしている細胞膜に埋め込まれた分子の姿とそのしくみは、このところよくわかってきている。その分子にすこし手を加えることにより、カリウムよりすこし大きなセシウムをえり好みして植物体のなかに吸い上げる分子をつくれるかもしれない。

 しばらく宇宙と生命の色恋話はわきにおいて、研究に励むことにしよう。

(山下雅道、やました・まさみち)

科学者が語るとこうなる。

凄い。科学者って凄い。理性・知性って凄い。
実際のところの向日葵が思ったほど有用でなかったとしても、こういう人達がいる限り、なんとかなる。きっとなんとかなる。


メモ
http://www.hiroburo.com/archives/51502559.html